遠くない未来に

だいぶ寒さが遠のいてきた。私が住んでいるところは田舎である。半径5km程度は幼いころ見た景色と大差がない。ただ昔のように、元気に往来を歩いている老人が少なくなったが……

ちょうど田には水が満ちて、稲と里山が青々としている。少し車で走れば開発が進むニュータウンに出る。高層の建物も増えた。私は自然ゆたかな景観も、都会のにぎわう街並みも、その両方が好きである。

最近気づいたことがある。私の好きな景色、それは私のものではないと。速度に差はあるだろうが、変わりゆくことに無縁でいられる場所などないだろう。私が好きだった場所も人も、写真や記録映像によって、郷愁を誘う過去の記憶になっていく。

見てみたい失われた風景は、私の記憶のなかだけではない。それほど遠くない昔、明治の手前までは、まだ日本の山野には、狼の遠吠えが聞こえた。見上げれば満天の星空は、そこかしこにあった。

Virtual Realityを使えば、ある種の動態保存が可能ではないかと考えた。文献などの歴史資料をもとに、景色や遺物をVRで再現する。当時の土壌は今とは違うだろう。咲いている植物も異なる。星の動きも違う。聖徳太子が生きていたころは、本州でも南十字星が見えたとどこかで聞いた。大がかりなプロジェクトになりそうだが、再現できるものは無限にある。そして一般の人々がその世界を体験することにつながる。

VRゴーグルをつけての体験になるかもしれない。私は玄奘三蔵が辿った道を行ってみたい。華やかな長安を発って西域へ。敦煌にはたくさんの僧侶がいる。禁を犯して国境を越える。のろし台の兵士は見てみぬふりをする。隊商都市サマルカンドでキャラバン隊に加わり、ヒンドゥークシュ山脈を行く。そして天竺(インド)へ。みな当時の気温やにおいで再現される。ゆたかな歴史体験にほかならない。

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4 件のコメント

  • 優しくて、奥深い文章だと思いました。
    何より、リズム感が好きです。
    「豊かな歴史体験」は沢山の気づきをくれそうですね。

    絵本「だるまさん」も買ってくれたんですね✨
    とても嬉しいです。
    もしよかったら、お母様に合う絵本を選びますよ。
    いつでも言って下さいね☺︎

    • お褒めにあずかり嬉しく思います。
      hachiさんセレクトとは楽しみですね。
      母は動物が出てくる話が好きみたいです。

  • 「私の好きな景色、それは私のものではないと。速度に差はあるだろうが、変わりゆくことに無縁でいられる場所などないだろう。」

    この言葉を見たとき、文字通り景色は時間と共に変わりゆく、ということの裏側に、見る人が変わったり、同じ人でも見方が変わったりするから、次の瞬間でも同じ景色も変わって見えるんじゃないか、という考察も同時にされているのではないかという気がしました。

    • もっちさん、すごいですね!私はそこまで考えが及んでいませんよ(^^;
      いただいたコメントに「そうだよな~」と頷くばかりです。

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