こころを映す乗りもの

〈!?〉
なにが起きたのかと戸惑う。私が乗ったバイクは右側に倒れていった。支えようと両腕に力を込めたが機体の重さに負けて、私も右側に転がった。バイクも私もコテンという様子だった。いわゆる立ちごけである。

丁字路で停車していて、さあ発進しようというところでアクシデントは起きた。私はエンジンがストップしていたことに気づいていなかった。半クラッチができていなかったわけである。それにもかかわらず右折するかまえでいたため、バランスを崩した。

私は昨年末、バイク乗りに復帰した。約三年ぶりである。納車前に自動車教習所で、ペーパーライダー講習を受けた。初の大型バイク購入を決めて、バイクを倒したくない思いが強かった。にもかかわらず……

バイクを起こす。さすがに重い。頭のなかはまだ混乱している。後ろの車は静かに待っていてくれた。なんとなく心配しているような様子だった。気を取り直して再度出発……それができたら苦労しない。胸中はどんよりとしたものがずっと渦巻いていた。自己嫌悪の嵐が吹き荒れる。目的地は以前よく通っていたバイク用品店である。皮肉にもその日は、転倒の際に機体のバイタルパートを守るエンジンガードを取り付ける予定だった。

道中、エンストが再度起きた。今度も信号で停止してからの発進の際にである。転倒はしなかったが、道路脇によけてしばらく乗り出せなかった。バイクは乗り手の心理状況をダイレクトに反映する。店に着くころには敗残兵のような気分だった。

「え~転んじゃったんですかー!」
馴染みの店員さんが私のバイクを見にきた。ひととおり見回して、これは不幸中の幸いだと言う。ヘッドライト回りとタンクなどのボディ部分が無傷だから安心してくれと言う。確かに右のブレーキレバーの一部が欠けた程度で済んでいた。マフラーも少々傷ができたが、店員さんは「マフラーはノーマルから、R社のチタンマフラーに変える予定でしたよね。あれは音もいいし、馬力もアップします。それまでの辛抱ですよ」と笑顔で言う。けっこうなお値段なのですぐには買えないが……

それから店員さんは、人生初の新車を買って間もなく倒した時のエピソードを語った。私も次第に笑って会話していた。帰り道はずいぶん気が楽になった。

現在、私はバイクを楽しんでいる。バイクは低速時が転倒しやすいと再認識したので、半クラッチを集中して練習した。そして、信号待ちなどで停車中は転倒を恐れるのではなく、スムーズにバイクを発進させて加速していくことを意識している。おかげさまでライディングは幸せな時間である。

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