「時に虚構の世界の住人が、実在の人間以上に大切なことを伝える」
確か受験生時代に使った英語の参考書のなかに、こういう趣旨の文面が記載されていた。章の区切りの頁に、受験生を励ます文章が載っていて、これはその一つだった。
振り返ると、長い小説を読みきる体験は、トールキンの『指輪物語』が初だった。映画『ロードオブザリング』の原作である。旅の仲間の物語に没入した。彼らの道ゆきは苦難の連続だが、巻数が増えるにしたがってまだ終わらないでほしいという思いがこみ上げてきた。まだサウロンを討たないでくれ、お話が終わってしまう(平和がなかなかこないが……)というように。
指輪物語以降、長い話が読めるようになった。『レ・ミゼラブル』、『三国志演義』、『モンテ・クリスト伯』など。
最近の読書で、今まで考えたことがなかったことを思った。物語の作者のこころの動きについてである。自らが生み出したキャラクターを舞台から去らせる時、作者は泣くのではないかと思った。
正直にいって、登場人物が味わう苦るしみが重いほど、どうして頭を悩ましてこんな場面を作るんだと考えてしまう。リアリティーのためのテクニカルな思考というよりは、作者自身が創作しながらその人物たちと行動をともにしている一体感から生み出されるように思った。虚構の人物を通して作者の人生がかいまみえてくる。だから、その人物が去り行く際は涙するような気がした。
普段なかなか目に留めない参考書などに書いている言葉からをも受け取ることができる、fusikianさんの感性が洗練されているように感じます。
ありがとうございます。私は受験でかなり難儀したので、参考書にさりげなく記された文章がとても響きました。